企業業績悪化で内定取り消しも [雇用]
企業業績悪化で内定取り消しも
「真剣な表情でメモをとりながら企業説明を聞く学生たち(1日、東京・豊島区のサンシャインシティで)」
2010年春に卒業予定の大学3年生の就職活動が例年にも増して激化している。世界的な金融危機で企業業績が悪化し、企業が採用数を絞ることが予想されるほか、09年春就職予定の4年生が業績悪化を理由に企業から内定を取り消されるケースも出ているからだ。危機感を強めた3年生はインターンシップや合同説明会などのイベントに多くの時間を割かれ、授業を受ける時間が少なくなり、大学側も頭を抱えている。(竹内和佳子)
早まるスタート
11月1日午前、東京・池袋サンシャインシティ内で、「流通・サービス業界を知るためのキャリアフォーラム」の開場を待つリクルートスーツ姿の大学生数百人が長蛇の列を作った。真っ先に会場に乗り込んだ都内の大学3年生男子(21)は「意識の高い学生は、3年生の夏休みからインターンシップに参加して実質的な就職活動を始めている。焦りを感じる」と漏らした。
学生側の売り手市場だった就職戦線に、世界的な金融危機が影を落とし、学生たちは早く内定を取ろうと必死だ。リクルートが運営する就活サイト「リクナビ」の岡崎仁美編集長は「採用人数が絞られることも予想され、就職活動は売り手市場から一転、様変わりしそうだ」と指摘している。
リクルートの「就職白書2007」によると、新卒採用の日程が前年より「早まった」と答えた企業は、07年(07年新卒が採用対象)は49%、08年(08年新卒が採用対象)は51・2%に上った。10年3月に卒業見込みの大学生の採用活動も「早くから動いており、すでに内々定をもらっている学生もいる」(岡崎編集長)。
景気低迷
ただ、早く内々定をもらっても就職活動はなかなか終わらない。中央大学の田口東・理工学部長は「学生は卒業研究や卒業論文を通じてやりたいことが見えてくる。内々定をもらっても(本当に自分にあった職場なのか)迷いが出て就職活動を続ける」と説明する。
さらに、09年春に就職するはずの大学4年生の内定を取り消す企業が出てきたことが、学生たちの就職活動の長期化に拍車をかけそうだ。
駒沢大学では、今年9月末から10月初旬にかけて、男子学生2人の内定が取り消された。内定を取り消した不動産会社と自動車部品製造会社の担当者は説明と謝罪のために大学を訪れ、理由を「景気低迷による事業計画の見直し」と説明したという。
駒沢大学キャリアセンターは「大学としては『不本意だ』という意思表示をするのが精いっぱい」と困惑を隠さない。
また、明治大学の就職・キャリア形成支援事務室によると、8月下旬から10月末までに、不動産2社、情報通信、ゲーム機製造の計4社からそれぞれ内定を得ていた学生4人が「業績不振」を理由に内定を取り消された。4人は再び就職活動を続けている。
地方でも内定が取り消されるケースが出ている。マツダの減産などの影響で景況感が悪化している広島県では、広島労働局が10月末に県内の16大学に聞いたところ、6大学の8人が内定を取り消された。建設会社や不動産会社などで「経営環境の悪化」が理由だった。
授業に支障
最近の就職活動はネットで簡単に、履歴書にあたるエントリーシートを企業に送付でき、入社試験以外の就職活動関連のイベントも増えている。こうしたイベントに何回出ているかによって学生の熱心さをはかる企業も多い。このため、合同セミナーや説明会への参加回数が増えることになり、その結果、学生の授業への出席率は低くなる。大学側は「選択科目では4年生が100人のクラスに20人しか出席しないこともある」(田口学部長)ほか、卒業論文に取りかかるのが遅れたり、研究活動に参加できないなどの弊害も出ているという。
申し入れ
現在、日本経団連は新卒採用に関する倫理憲章を毎年発表し、採用活動は大学4年の4月に始め、内定を出すのは10月1日以降にするよう会員企業に求めているが、拘束力はない。
国立大学協会など大学側は7月、主な経済団体や就活サイト運営企業など計137団体・企業に採用活動の早期化を是正するように求める要請書を提出した。東大や京大など国立大学の工学部長らで構成する8大学工学部長会議も10月、修士課程の大学院生の教育研究を妨げているとして、早期化の是正を求める声明を発表した。
国立大学協会の江村由紀子主幹は、「就職活動に時間を奪われ、本来身につけるべき能力が欠けている学生を採用することは企業にも損失だ」と指摘。田口学部長も「企業はどんな学生を求めるのか、大学と話し合い、就職活動の時期について合意を形成すべき」と主張している。
(2008年11月12日 読売新聞)
「真剣な表情でメモをとりながら企業説明を聞く学生たち(1日、東京・豊島区のサンシャインシティで)」
2010年春に卒業予定の大学3年生の就職活動が例年にも増して激化している。世界的な金融危機で企業業績が悪化し、企業が採用数を絞ることが予想されるほか、09年春就職予定の4年生が業績悪化を理由に企業から内定を取り消されるケースも出ているからだ。危機感を強めた3年生はインターンシップや合同説明会などのイベントに多くの時間を割かれ、授業を受ける時間が少なくなり、大学側も頭を抱えている。(竹内和佳子)
早まるスタート
11月1日午前、東京・池袋サンシャインシティ内で、「流通・サービス業界を知るためのキャリアフォーラム」の開場を待つリクルートスーツ姿の大学生数百人が長蛇の列を作った。真っ先に会場に乗り込んだ都内の大学3年生男子(21)は「意識の高い学生は、3年生の夏休みからインターンシップに参加して実質的な就職活動を始めている。焦りを感じる」と漏らした。
学生側の売り手市場だった就職戦線に、世界的な金融危機が影を落とし、学生たちは早く内定を取ろうと必死だ。リクルートが運営する就活サイト「リクナビ」の岡崎仁美編集長は「採用人数が絞られることも予想され、就職活動は売り手市場から一転、様変わりしそうだ」と指摘している。
リクルートの「就職白書2007」によると、新卒採用の日程が前年より「早まった」と答えた企業は、07年(07年新卒が採用対象)は49%、08年(08年新卒が採用対象)は51・2%に上った。10年3月に卒業見込みの大学生の採用活動も「早くから動いており、すでに内々定をもらっている学生もいる」(岡崎編集長)。
景気低迷
ただ、早く内々定をもらっても就職活動はなかなか終わらない。中央大学の田口東・理工学部長は「学生は卒業研究や卒業論文を通じてやりたいことが見えてくる。内々定をもらっても(本当に自分にあった職場なのか)迷いが出て就職活動を続ける」と説明する。
さらに、09年春に就職するはずの大学4年生の内定を取り消す企業が出てきたことが、学生たちの就職活動の長期化に拍車をかけそうだ。
駒沢大学では、今年9月末から10月初旬にかけて、男子学生2人の内定が取り消された。内定を取り消した不動産会社と自動車部品製造会社の担当者は説明と謝罪のために大学を訪れ、理由を「景気低迷による事業計画の見直し」と説明したという。
駒沢大学キャリアセンターは「大学としては『不本意だ』という意思表示をするのが精いっぱい」と困惑を隠さない。
また、明治大学の就職・キャリア形成支援事務室によると、8月下旬から10月末までに、不動産2社、情報通信、ゲーム機製造の計4社からそれぞれ内定を得ていた学生4人が「業績不振」を理由に内定を取り消された。4人は再び就職活動を続けている。
地方でも内定が取り消されるケースが出ている。マツダの減産などの影響で景況感が悪化している広島県では、広島労働局が10月末に県内の16大学に聞いたところ、6大学の8人が内定を取り消された。建設会社や不動産会社などで「経営環境の悪化」が理由だった。
授業に支障
最近の就職活動はネットで簡単に、履歴書にあたるエントリーシートを企業に送付でき、入社試験以外の就職活動関連のイベントも増えている。こうしたイベントに何回出ているかによって学生の熱心さをはかる企業も多い。このため、合同セミナーや説明会への参加回数が増えることになり、その結果、学生の授業への出席率は低くなる。大学側は「選択科目では4年生が100人のクラスに20人しか出席しないこともある」(田口学部長)ほか、卒業論文に取りかかるのが遅れたり、研究活動に参加できないなどの弊害も出ているという。
申し入れ
現在、日本経団連は新卒採用に関する倫理憲章を毎年発表し、採用活動は大学4年の4月に始め、内定を出すのは10月1日以降にするよう会員企業に求めているが、拘束力はない。
国立大学協会など大学側は7月、主な経済団体や就活サイト運営企業など計137団体・企業に採用活動の早期化を是正するように求める要請書を提出した。東大や京大など国立大学の工学部長らで構成する8大学工学部長会議も10月、修士課程の大学院生の教育研究を妨げているとして、早期化の是正を求める声明を発表した。
国立大学協会の江村由紀子主幹は、「就職活動に時間を奪われ、本来身につけるべき能力が欠けている学生を採用することは企業にも損失だ」と指摘。田口学部長も「企業はどんな学生を求めるのか、大学と話し合い、就職活動の時期について合意を形成すべき」と主張している。
(2008年11月12日 読売新聞)
2008-11-26 14:42
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